2.1.9 中性子と物質との相互作用

 中性子は電荷を持たないので、直接の電離作用を行わない。光子が主に軌道電子と相互作用するのに対して、中性子は原子核とのみ相互作用を行う。
 中性子と原子核の主な相互作用には次の4種類がある。

 (1)弾性散乱
 堅いゴム球同志の衝突のようなもので、衝突の前後で運動エネルギーが保存される。衝突相手の原子核が重い場合は、中性子の運動方向は変化するが、速度はほとんど変化しない。原子核の受ける反跳も非常に小さい。しかし、水素原子核(陽子)との衝突では、互いの質量がほぼ等しいため、ビリヤードの球同志の衝突のようである。正面衝突では、中性子の運動エネルギーはすべて陽子に与えられ(反跳陽子)、中性子はほぼ停止する。そのため水素を多量に含む物質は高速中性子を減速させる能力が高い(減速材)。減速された中性子は、周囲と熱平衡に達し、熱中性子(常温では平均速度2200m/秒、エネルギー0.025eV)となる。

 (2)非弾性散乱
 衝突の際に原子核が励起され、その分中性子の運動エネルギーが減少する。鉄などの重い元素では、中性子は主に非弾性散乱によって減速される。励起された原子核は、γ線を放出して基底状態にもどる。

 (3)捕獲
 中性子が相手の原子核に吸収されてしまう反応である。熱中性子など、低速の中性子で重要な反応である。原子核の原子番号は変化せず、質量数が1増加する。その際、中性子の結合エネルギーに相当するγ線が放出される場合が多い。水素原子核(1H)に捕獲されると、重水素(2H)が生成されるとともに、2.2MeVのγ線が放出される。捕獲する原子核が10B,6Li,3Heなどの場合は、10B(n,α),6Li(n,α)3He(n,p)反応によって、αやpなど高速の荷電粒子が放出される。
 原子炉の内部のように非常に熱中性子が多い場合は、捕獲反応を利用した放射性核種生産に利用されることがある。例えば原子炉内に天然のコバルト(59Co:100%)やリン(31P:100%)を挿入し、59Co(n,γ)60Coまたは31P(n,γ)32P反応によって、有用な60Coや32Pが生産される。

 (4)核分裂
 天然のウラン中に0.7%含まれる235Uは、熱中性子の捕獲反応によって236Uに変化すると同時に核分裂し、2個の核分裂生成物に分離するとともに数個の中性子、γ線を放出する。核分裂生成物の質量は95と134付近を頂点とする2つの山を形成する。そのため原子炉の使用済燃料を処理すると、90Srや137Csが多く得られ、放射線源として利用される。