2.4 嗅覚

 においの計測法の開発は、人の五感に対するものの中で最も遅れている。これは、視覚、聴覚、触覚が主として光、音、圧力などの物理量を対象とするのに対し、嗅覚は味覚と並んで化学感覚(嗅細胞が化学物質を受容する)であり、そのうえ対象となる物質の種類が無限で、しばしばその濃度が極めて低いのが主な理由である。また、嗅覚は人間にとって非常に曖味な感覚であり、数値化が難しいのも理由の一つである。こうした理由から、計測器により定量的・客観的に判断することが困難であったため、従来は熟練者の評価に頼らざるを得なかったが人の判断にはばらつきがあり問題があった。このため、用途が限定されてはいるが、いくつかの製品が市場に投入され使用されている。近年では、ニューラルネットワークを用いて、においの識別も出来るようになってきている。現在におい計測用のセンサとして使用されている方式は、ほとんどが半導体式か水晶振動子式である。半導体式はガスセンサの一種で、酸化物半導体式と有機半導体式があり、水晶振動子式には天然脂質を使用したものと合成脂質を使用したものがある。においセンサの種類を表2.1に、主な応用分野を表2.2に示す。

(1)半導体式
 半導体を用いたにおいの検出は、半導体表面におけるにおい分子の吸着と表面反応によって半導体の抵抗値が変化することを利用している。酸化物半導体式は原理的にガスセンサであり、生体の機能とは全く異なるために、嗅覚との相関を見ることは難しいが、物質の有無、物質濃度に比例した出力を得るための機器として使用されており、かなりの実績がある。検出対象としては、無機系のにおい物質、特に硫化水素に対しては極めて高い感度を示すが、香料などに対しては感度が低いことが多い。有機半導体式としてはにおいの識別を可能としたシステムが販売されているが、歴史も浅く、また高価なため使用実績は少ないと思われる。

(2)水晶振動子式
水晶振動子式は振動子の表面ににおい感応膜を貼り付けた構造をしている。におい分子が感応膜に吸着すると膜の質量が増加し、水晶振動子の共振周波数が低下する。この低下量は吸着したにおい物質の質量に比例することからこの低下量を計測することによりにおい物質の濃度が計測できる。水晶振動子式は、におい分子を吸着する部分に脂質膜という人間の嗅細胞と同じ種類の膜を用いることにより、特に有機系のにおい物質について生体の嗅覚特性に近いセンサを実現できる可能性がある。水晶振動子式では、におい感応膜として天然脂質を用いたもの、合成脂質を用いたもの、各種の膜を張った複数のセンサからなるアレイの出力パターンを用いて酒類や香水の識別を行うものなどがある。

表2.1 におい計測センサの種類
方式 半導体式においセンサ 水晶振動子式においセンサ
具体例 酸化物半導体式
有機半導体式
天然脂質膜
合成脂質膜
特長 長寿命
無機ガスに対応
濃度特性が嗅覚に近い
出力が濃度にリニア
原理
におい分子
半導体
抵抗値変化検出
におい分子
脂質膜
水晶振動子
共振周波数変化検出


表2.1 におい計測センサの種類
分類 事例 特長
研究開発
品質管理
食品、化粧品等の出荷検査
食品、化粧品等の出荷検査
原料の受入検査
食品の鮮度測定
酒の検定
気体そのものではなく、対象物の発するにおいが対象。しばしば非常に微妙な識別性が必要になる。
悪臭計測 悪臭防止法等に基づく計測
作業環境の管理
脱臭装置の効果測定
臭気の種類ではなく、強度が問題。
臭気濃度との対応が必要。
異常監視 ガスや液体の漏れ検知
火災検知
必ずしも人間の嗅覚との対応は必要ない。